2013年2月28日木曜日

腹部の筋(Muscles of abdomen)


●前腹筋
腹直筋
起始:恥骨結合、恥骨
停止:第57肋軟骨前面、剣状突起前面
支配神経:肋間神経(第712胸神経)
作用:体幹を前屈
※上部では筋の幅は広く、下部では幅が減少するが厚さは増大する。
※途中には中間腱としての機能をもつ34本の腱画が筋を横切るように並んでいる。
※腹直筋の前面と後面は腹直筋鞘(前葉と後葉)に覆われる。この筋鞘は側腹筋である外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の停止腱膜が生中線近くで癒合してつくられる。
※左右両側の腹直筋鞘の線維は正中線上で互いに交錯癒合し、剣状突起から恥骨結節まで続く強い紐状の白線をつくる。
※白線は臍のところで臍動脈・臍静脈を通していた孔を囲んで臍輪をつくる。臍輪は生後、次第に収縮し、閉鎖するが、閉鎖が不完全なときには、腹圧が高まると臍輪から腸が脱出し臍ヘルニアが起こる。
※臍輪から約3cm下方で腹直筋鞘後葉が終わり、その下縁である弓状線が明確に認められる。これより下方では腹直筋の後面は直接横筋筋膜に接しており、容易に腹腔に到達することができる。

錐体筋
起始:恥骨
停止:白線
支配神経:肋下神経(第12胸神経)、腸骨下腹神経(第1腰神経)
作用:腹直筋の働きを助ける。
※白線を収縮させて、腹直筋の働きを助ける。
※前面は腹直筋鞘におおわれ、後面は粗性結合組織を介して腹直筋に接する。





●側腹筋(すべて肋間神経・腸骨下腹神経支配)
外腹斜筋
起始:第512肋骨の外面
停止:腹直筋鞘、鼡径靭帯、腸骨稜
支配神経:肋間神経(第512胸神経)、腸骨下腹神経
作用:肋骨を引き下げ、脊柱を前屈。体幹をまわし、側屈する。腹圧を高める。
※腹壁の最表層をおおう筋。
※筋束はズボンのポケットに手を入れるような方向、すなわち後ろから斜め前下方に走行。
※腹直筋鞘前葉を形成。

内腹斜筋
起始:胸腰筋膜、腸骨稜、鼡径靭帯
停止:第1012肋骨下縁、腹直筋鞘
支配神経:肋間神経(第1012胸神経)、腸骨下腹神経
作用:肋骨を引き下げ、脊柱を前屈。体幹をまわし、側屈する。腹圧を高める。
※腹壁の中層を構成。
※筋束は外腹斜筋と交差する方向、すなわち外側下方から内側上方に走る。
※最下端部の筋束は精索を包み込むように下降して精巣挙筋となり、腰神経叢から起こる陰部大腿神経の支配を受ける。

腹横筋
起始:第712肋軟骨内面、胸腰筋膜、腸骨稜、鼡径靭帯
停止:腹直筋鞘
支配神経:肋間神経(第712胸神経)、腸骨下腹神経
作用:腹圧を高める。(肋骨を引き下げ、脊柱を前屈。体幹をまわし、側屈する。)
※側腹筋の最内層。
※肋間神経より内側に位置する。


●鼡径靭帯と鼡径管
鼡径靭帯は外腹斜筋の停止腱膜の下縁が肥厚して靭帯となって、上前腸骨棘と恥骨結節との間に張ったもの。
鼡径管は鼡径靭帯の上縁に沿って斜め内下方に向かって走る側腹筋のトンネルで、その長さは成人では約4cmある。腹腔側の入り口は深鼡径輪といい鼡径靭帯のほぼ中央にあり、内下方に斜走して恥骨結合のすぐ上方の浅鼡径輪で腹壁の外に出る。ここを男性では精管と精巣動・静脈を含む精索が、女性では子宮円索という結合組織のひもが通る。
※胎児期に精巣という鼠が腹腔から陰嚢へと下降していった径(みち)であることから、鼡径(鼠径)という名がある。
※鼡径管は前腹壁における抵抗の弱い場所であり、ヘルニアの好発部位となる。成長とともに鼡径管は長くかつ斜走するようになるが、新生児では鼡径管は短く深鼡径輪は浅鼡径輪のほぼ後方にあるので、ヘルニアを起こしやすい。とくに男児では、精巣が腹腔から陰嚢に下降したあとの腹膜の閉鎖が不完全だと、鼡径ヘルニアになりやすい。





●後腹筋
腰方形筋
起始:腸骨稜
停止:第12肋骨
支配神経:腰神経叢
作用:腰椎の側屈、両側が同時に働けば腰椎の後屈
※この筋と腰神経前枝とは交叉する。
※第12肋骨を骨盤の方に引き寄せる働き。
※腰方形筋の前方には腎臓がある。固有背筋の外側後方から腎の位置を知る際の指標となる。


2013年2月25日月曜日

胸部の筋(Muscles of chest)


●浅胸筋(すべて胸郭から起こり、腕神経叢からの神経支配を受ける)
大胸筋
起始:鎖骨(内側1/2)、胸骨と肋軟骨、腹直筋鞘
停止:上腕骨大結節稜
支配神経:内側胸筋神経・外側胸筋神経(第58頸神経、第1胸神経)
作用:肩関節の屈曲、内転・内旋
※両腕をひろげて深呼吸するときは肋骨を引き上げるので、呼吸補助筋にもなる。
※腋窩の前壁をつくる(後壁は広背筋、内側壁は前鋸筋、外側壁は上腕骨)。

小胸筋
起始:第25肋骨
停止:肩甲骨烏口突起
支配神経:内側胸筋神経・外側胸筋神経(第58頸神経、第1胸神経)
作用:呼吸補助筋
※肩甲骨の関節窩を前下方に向ける。
※地面に落とした物を、腕を前に伸ばして拾うときに働く。
※肩甲骨が固定されているときは、肋骨を挙上し呼吸の補助筋としても働く。

鎖骨下筋
起始:第1肋骨
停止:鎖骨下面
支配神経:鎖骨下筋神経(第5頸神経)
作用:鎖骨を下内方に引き、胸鎖関節を保護する。
※上肢の強い運動の際、鎖骨が過度に引っ張られないように固定し、胸鎖関節の脱臼を防ぐ。
※筋の直下を走行する鎖骨下動・静脈のクッションの役目を果たしている。

前鋸筋
起始:第18肋骨
停止:肩甲骨内側縁
支配神経:長胸神経(第57頸神経)
作用:肩甲骨を前に引く。下角を前に引いて肩甲骨を回す。
※腋窩の内側壁を形成。
※全体として肩甲骨を前方に引くが、とくに下方の筋束は下角を前方に引いて肩甲骨を回し、肩関節の屈曲と外転を助ける。





●深胸筋
※胸郭に起始と停止をもつ固有の胸筋。
※すべて呼吸作用に関係する。
外肋間筋
起始・停止:各肋間隙を満たす最表層筋。後方では肋骨結節から起始、筋束は前下方へ斜めに走る。前方は腱膜様となり、外肋間膜という。
支配神経:肋間神経
作用:肋骨を引きあげて胸郭を広げ、息を吸い込む(吸気筋)
※後方で厚く、前方に向かうにつれて薄い膜状になる(外肋間膜)

内肋間筋
起始・停止:肋間隙の中層筋。筋束は前上方へ斜めに走る。後方は腱膜様となり、内肋間膜という。
支配神経:肋間神経
作用:肋骨を引きさげて胸郭を狭め、息を吐き出す(呼気筋)
※胸骨縁でよく発達している。

最内肋間筋
起始・停止:肋間隙の最内層筋。内肋間筋の内面で同じ走行をもつ筋束であるが、肋間神経・動脈・静脈が両者を分ける。
支配神経:肋間神経
作用:肋骨を引きさげて胸郭を狭め、息を吐き出す(呼気筋)

肋下筋
起始・停止:胸郭後壁の内面にある。最内肋間筋の分束で、第23肋間にまたがる。
支配神経:肋間神経
作用:肋骨を引きさげて胸郭を狭め、息を吐き出す(呼気筋)

胸横筋
起始・停止:起始は胸郭前壁の内面で、胸骨から斜上方へ走る。停止は第26肋軟骨へ至る。
支配神経:肋間神経
作用:肋骨を引きさげて胸郭を狭め、息を吐き出す(呼気筋)

肋骨挙筋
起始・停止:胸郭後壁の外面にある。起始は各胸椎の横突起で斜め下外側に扇状に広がる。停止は1つまたは2つ下の肋骨につく。
支配神経:脊髄神経後枝
作用:肋骨を引きあげ、息を吸う(吸気筋)




                                   
●横隔膜
横隔膜
起始:第14腰椎の椎体前面、第12肋骨尖端、第712肋軟骨の内面、剣状突起よりの小さい筋束
停止:腱中心(膜状筋板は円蓋状に集まる。中心部は腱膜化し、クローバー状を呈す)
支配神経:横隔神経(第35頸神経)
作用:吸気筋(収縮すると胸腔は広がり、弛緩すると胸腔は狭まる)
※胸腔と腹腔を隔てる横紋筋でできた膜状の隔壁。
※腱中心は第45肋骨の高さにある。
※収縮することでドーム状の屋根が下がる。⇒胸腔内圧低下。
※以下の3つの孔が存在
・大動脈裂孔:第12胸椎の椎体前面にあり、下行大動脈と動脈周囲交感神経叢(大・小内臓神経など)、奇静脈、胸菅などが通る。
・食道裂孔:第10胸椎の高さで大動脈裂孔の左前上方にあり、食道と、左右の迷走神経が通る。
・大静脈孔:第8胸椎の高さで腱中心にあり、右寄りに位置する。下大静脈が通る。
※横隔膜の上面は胸膜に、下面の大部分は腹膜に覆われている。
※裂孔の周りの筋束はハチマキ状に走り、腸管などの裂孔からの脱出を防いでいる。
※横隔膜ヘルニアでは食道裂孔を通るもの(食道ヘルニア)が最も多い。


2013年2月14日木曜日

奇穴(よく知られている経穴の組み合わせ)


6.よく知られている経穴の組み合わせ




1 六つ灸(むつきゅう)別名:六華の灸(ろっかのきゅう)、胃の六つ灸
部位:膈兪・肝兪・脾兪の左右で計6穴を取る。
主治:胃疾患

2 小児斜差の灸(しょうにすじかいのきゅう)別名:小児すじかい灸、小児すじちがいの灸、小児しゃさの灸
部位:男児は左の肝兪と右の脾兪の2穴、女児は右の肝兪と左の脾兪の2穴を取る。
主治:小児疾患(特に疳の虫)
※小児斜差の灸とは、脊柱を越えて斜めに取る小児疾患に有効な施灸点という意味で、23歳の小児常用の灸穴として有名である。

3 中風七穴(ちゅうふうななけつ)
部位:2説ある。
①百会・曲鬢・肩井・曲池・風市・足三里・懸鍾(別名:絶骨)の7
②百会・風池・肩井・大椎・曲池・間使・足三里の7
主治:中風、言語障害
※中風七穴は、中風の予防や治療に用いられる。

4 脚気八処の穴(かっけはっしょのけつ)
部位:風市・伏兎・犢鼻・外眼膝・足三里・上巨虚・下巨虚・懸鍾(別名:絶骨)の8
主治:脚気
WHO/WPROの決定では、以下のように、従来の外膝眼が犢鼻となっている。
外膝眼:膝関節部で、膝関節を屈曲して膝蓋骨下縁で膝蓋靭帯の外側陥凹部
犢鼻:膝蓋骨下縁と脛骨上端との中点で膝蓋靭帯中。



2013年2月10日日曜日

奇穴(上肢部、下肢部)


4.上肢部穴
- 肩内陵(けんないりょう)(別名:肩前(けんぜん))
取り方:上肢を下垂し、腋窩横紋前端と肩髃(大腸経)との中点に取る。
主治:肩関節周囲炎、上肢の運動障害、片麻痺

- 腰痛点(ようつうてん)(別名:腰腿点(ようたいてん))
取り方:手背、第2・第3および第4・第5中手骨底間の陥凹部の2点に取る。
※左右の4穴を同時に取り、鍼尖が互いに接するよう「逆八の字」に刺鍼する。刺鍼中に刺激を与えながら、腰部の前屈・後屈・回旋などの運動をさせる。
主治:急性腰痛、捻挫、腱鞘炎、リウマチ

Ex-UE8 落枕(らくちん)(別名:外労宮(そとろうきゅう))
取り方:手背、第2・第3中手指節関節の間の近位陥凹部に取る。
※患側を取り、刺鍼中に刺激を加えながら、頸の運動を同時に行う。
主治:寝違え

Ex-UE9 八邪(はちじゃ)
取り方:手背、手を軽く握り、各中手指節関節の間の背側に取る。
※左右で計8穴を取る。
主治:歯痛、頭痛、手の痛み(中手指節関節の疾患、手の拘縮、関節リウマチ)

Ex-UE10 四縫(しほう)
取り方:示指・中指・薬指・小指の掌側で、近位指節間関節横紋の中央に取る。
※左右で計8穴を取る。
主治:小児疳虫症、手指の関節炎

Ex-UE11 十宣(じゅっせん)(別名:十指端(じゅっしたん))
取り方:両手十指の各先端中央に取る。
主治:手指の知覚異常、発熱、救急的に使用(失神、昏迷、ヒステリー、癲癇、卒中)





5.下肢部穴
Ex-LE2 鶴頂(かくちょう)別名:膝頂(しつちょう)
取り方:膝関節部、膝蓋骨底上際中央の陥凹部に取る。
※膝関節を軽く屈曲すると、取穴しやすい。
主治:膝関節疾患、下肢麻痺

Ex-LE4 内膝眼(ないしつがん)
取り方:膝前面、膝蓋靭帯内方の陥凹部に取る。
主治:膝関節疾患、脚気、中風、下肢痛、下肢倦怠感

- 胆嚢点(たんのうてん)別名:膽嚢点(たんのうてん)
取り方:陽陵泉(胆経)の下約1寸に取る。
主治:胆嚢炎、胆石症、胸脇痛、下肢痛、下肢運動麻痺

Ex-LE7 闌尾(らんび)
取り方:足三里(胃経)の下約2寸に取る。
主治:急性虫垂炎

Ex-LE10 八風(はっぷう)
取り方:足背、各中足指節関節の間に取る。
※左右で計8穴を取る。
主治:足の痛み(脚気、足背痛、足指の発赤・腫脹、関節リウマチ)

- 裏内庭(うらないてい)
取り方:足底部、第2中足指節関節のやや後方に取る。
※足の第2指裏側の最も高いところに墨を付け、折りまげて足底につくところにあたる。
主治:食中毒、食あたり、腹痛、嘔吐、下痢

- 失眠(しつみん)
取り方:足底部、踵の中央に取る。
主治:下肢の冷え・むくみ、不眠