2013年3月24日日曜日

前腕の筋(Muscles of forearm)




※前腕の筋は、前腕前面にある屈筋群と、後面にある伸筋群に分けられる。
※上腕骨または橈骨・尺骨から起こり、主に手の骨に停止して手や指を動かす(一部の筋は橈骨に停止して肘関節を動かす)。
※手根部ではこれらの筋は腱となり、腱鞘(滑液鞘)に包まれて手内に入る。
※屈筋群では、腱の多くが手根骨に張った屈筋支帯の下(手根管)を通って手掌に入る。伸筋群の腱も同様に、前腕骨の遠位端にできた伸筋支帯の下を通って手背に入る。





●前腕の屈筋群(深指屈筋の一部と尺側手根屈筋は尺骨神経支配だが、他の筋はすべて正中神経支配)
・浅層の屈筋(すべて上腕骨内側上顆から起始)
※外側から、円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋、浅指屈筋、尺側手根屈筋がある。
※橈側手根屈筋、長掌筋、浅指屈筋、尺側手根屈筋の4筋は前腕の内側に盛り上がる。
※橈側手根屈筋、長掌筋、尺側手根屈筋の3筋が、手根伸筋と同時に作用すると、手関節が固定される。手根の固定は、手関節を曲げずに指だけを屈伸する場合に必要。

円回内筋
起始:
1.上腕頭-内側上顆(上腕骨)
2.尺骨頭-鉤状突起(尺骨)
停止:円回内筋粗面(橈骨)
支配神経:正中神経
作用:前腕の回内と肘関節の屈曲
※前腕屈筋群の最上位にあって、肘窩の内側縁に位置する。
※両頭の間には正中神経が通る。

橈側手根屈筋
起始:内側上顆
停止:第23中手骨底
支配神経:正中神経
作用:手関節の屈曲・外転(橈屈)

長掌筋
起始:内側上顆
停止:手掌腱膜
支配神経:正中神経
作用:手関節の屈曲
※腱は屈筋支帯の浅層を通って(手根管は通らない)、手掌の皮下で扇状に広がった手掌腱膜をつくる。手掌腱膜は手掌の皮膚と強く癒合するため、手のひらの皮膚はつまみ上げることができない。手をすぼめてやや手関節を掌屈すると、この腱が手首の掌側中央に隆起する。
※長掌筋の作用は小さく、しばしば筋自体が欠如する。また、外科的に腱の自家移植に使われることもある。

浅指屈筋
起始:
1.上腕尺骨頭-内側上顆、尺骨粗面(尺骨)
2.橈骨頭-橈骨上部の前面
停止:第25中節骨底
支配神経:正中神経
作用:第25指のMP関節およびPIP関節を屈曲
※長掌筋の深部に位置する。
※内側上顆から橈骨前面に広がった起始の中央に起始腱弓をつくる。
※各指の浅指屈筋腱は停止の直前で2分裂して、裂目の間に深指屈筋腱を通す。

尺側手根屈筋
起始:
1.上腕骨-内側上顆
2.尺骨頭-尺骨上半部の後縁
停止:豆状骨・第5中手骨底
支配神経:尺骨神経
作用:手関節の屈曲と内転(尺屈)
※手首の前面で最も尺側に触れる腱がこの筋の停止腱。それをたどると丸く隆起した豆状骨が容易に触知できる。

・深層の屈筋
深指屈筋
起始:尺骨前面・前腕骨間膜
停止:第25末節骨底
支配神経:橈側半は正中神経、尺側半は尺骨神経
作用:第25指のDIP関節を屈曲
※通常は末節のみを屈曲することはできず、指節間関節(IP関節)を一括して屈曲させる。
※手根管内では、深指屈筋腱は浅指屈筋腱とともにひと続きの大きな滑液包に包まれる。中手指節関節(MP関節)より遠位では、指ごとに個別の腱鞘が各指の浅・深指屈筋を一括して包む。この部分の腱鞘や腱の損傷は癒着を起こしやすく、機能障害を生じやすい。
※物を強く握る時に、橈側・尺側の手根屈筋および手根伸筋が同時に作用して手関節を固定しないと、指の屈筋が指だけを強く屈曲できずに十分な握力が出せない。むしろ手根伸筋によって手関節をやや伸展(背屈)させたほうが、強い握力を出せるといわれる。

長母指屈筋
起始:橈骨前面、前腕骨間筋
停止:母指末節骨底
支配神経:正中神経
作用:母指のMPIP関節を屈曲

方形回内筋
起始:尺骨下部前面
停止:橈骨下部前面
支配神経:正中神経
作用:前腕の回内
※前腕の回内には主にこの筋が作用し、さらに強く回内する場合に円回内筋が協力的に作用する。






●前腕の伸筋群(すべて橈骨神経支配)
・浅層の伸筋(すべて上腕骨外側上顆から起始、腕橈骨筋だけは外側上顆のやや上で上腕骨外側縁)
※これらの前腕伸筋群の激しい運動によって外側上顆の過度な牽引があると、外側上顆に骨膜炎を生じて、痛みを発することがある。テニス選手にみられることが多いためテニス肘(上腕骨外側上顆炎)と呼ばれる。

腕橈骨筋
起始:上腕骨下部外側縁
停止:橈骨茎状突起
支配神経:橈骨神経
作用:肘関節の屈曲
※肘窩の外側縁の盛り上がりをなす。
※前腕が回内―回外の中間位にあるときには外側上顆の前(肘関節に対しても前方)を走るので、実際は肘関節を屈曲する。

長橈側手根伸筋
起始:外側上顆
停止:第2中足骨底
支配神経:橈骨神経
作用:手関節の伸展(背屈)と外転(橈屈)

短橈側手根伸筋
起始:外側上顆
停止:第3中手骨底
支配神経:橈骨神経
作用:手関節の伸展(背屈)と外転(橈屈)
※長・短橈側手根伸筋はともに前腕外側縁の盛り上がりをつくる。前腕の下端部では、長母指外転筋と短母指伸筋の深層を通って交叉した後、伸筋支帯の下を通って手背に停止する。

総指伸筋
起始:外側上顆
停止:第25指の中節骨と末節骨
支配神経:橈骨神経
作用:手関節の伸展(背屈)と第25指の伸展

小指伸筋
起始:外側上顆
停止:第5指の指伸筋腱
支配神経:橈骨神経
作用:第5指の伸展
※総指伸筋と小指伸筋は、手根に近づくと細長い腱となって伸筋支帯の下を通り、手背に入る。各指の腱は指背で膜状に拡がって指背腱膜をなす。この腱膜は3部の線維束になって、中央の線維は中節骨底、両側の線維は末節骨底につく。
※手背で、総指伸筋の4腱は隣り合う腱どうしが線維束によって相互に結合し合うので(腱間結合)、ある指だけを単独で伸展することが難しい。
※指を強く伸展し背側にそらせると手背にこれらの腱が明確に触知される。

尺側手根伸筋
起始:外側上顆、尺骨後面
停止:第5中手骨底
支配神経:橈骨神経
作用:手関節の伸展と内転(尺屈)
※前腕の伸筋群で最も内側に位置する。
※前腕下端で腱になり、伸筋支帯の下を通って手背に達する。


・深層の伸筋
※外側から、回外筋・長母指外転筋・短母指伸筋・長母指伸筋・示指伸筋の順に並ぶ。

回外筋
起始:外側上顆、尺骨回外筋稜
停止:橈骨上部外側面
支配神経:橈骨神経
作用:前腕の回外
※総指伸筋上部の深層に位置する幅広く短い筋。
※この筋は前腕を回外するが、さらに強く回外するときには、これに上腕二頭筋の回外作用が加わる。
※橈骨神経の深枝がこの筋を貫通する。

長母指外転筋
起始:橈骨および尺骨後面・前腕骨間膜
停止:第1中手骨底
支配神経:橈骨神経
作用:母指の外転

短母指伸筋
起始:橈骨下部後面、前腕骨間膜
停止:母指基節骨底
支配神経:橈骨神経
作用:母指のMP関節の伸展

長母指伸筋
起始:尺骨後面、前腕骨間膜
停止:母指末節骨底
支配神経:橈骨神経
作用:母指のIP関節の伸展

※橈骨小窩:母指を強く伸展すると、手根部背面の橈側に長母指伸筋腱と短母指伸筋腱が隆起し、両腱の合間に三角形のくぼみができる。このくぼみを橈骨小窩または解剖学的嗅ぎタバコ入れと呼ぶ。この中で橈骨動脈の拍動や舟状骨が触知される。

示指伸筋
起始:尺骨下部後面、前腕骨間膜
停止:第2指の背側腱膜
支配神経:橈骨神経
作用:示指の伸展
※この筋によって示指のみを単独で伸展させることができる。


2013年3月14日木曜日

上腕の筋(Muscles of upper limb)


※上腕部に筋腹を持ち、主に肩甲骨または上腕骨から起こり、前腕の橈骨・尺骨について肘関節の運動に関与する。
※烏口腕筋だけは肩甲骨と上腕骨を結び、機能的には肩関節を動かす上肢帯筋の役割がある。

●上腕の屈筋群(すべて筋皮神経支配
烏口腕筋
起始:烏口突起(肩甲骨)
停止:上腕骨体
支配神経:筋皮神経
作用:肩関節の屈曲・内転
※筋の表面は上腕二頭筋短頭におおわれる。
※筋皮神経はこの筋を貫通する。

上腕二頭筋
起始:
1.長頭‐関節上結節(肩甲骨)
2.短頭‐烏口突起(肩甲骨)
停止:橈骨粗面(橈骨)
支配神経:筋皮神経
作用:肘関節の屈曲・前腕の回外
※力こぶの筋。
※長頭は、肩関節腔内に起こり、滑膜に覆われて上腕骨頭の上を横断する。その後、上腕骨小結節の外側縁を滑車のように利用して下方に向きを変え、結節間溝を下行する。
※短頭の起始腱は烏口腕筋の表面に走る。
※上腕二頭筋の停止腱の一部は腱膜として前腕内側の皮下にある前腕筋膜に癒合する。この腱膜は前腕を回外する際に、二頭筋の収縮力を前腕筋膜に伝える作用があるといわれる。上腕二頭筋に力をいれながらわずかに肘を曲げると、この腱膜が肘窩の内側の皮下に明確に触れ、その深部には肘窩に向かう上腕動脈や正中神経が通る。

上腕筋
起始:上腕骨前面の下半部
停止:尺骨粗面(尺骨)
支配神経:筋皮神経
作用:肘関節の屈曲
※肘関節を強力に屈曲する。肘関節の屈曲には常にこの筋が強く作用する。
※上腕二頭筋の深層に位置し、体表からは観察しにくい。





●上腕の伸筋群(すべて橈骨神経支配
上腕三頭筋
起始:
1.長頭‐関節下結節(肩甲骨)
2.外側頭‐上腕骨外側面
3.内側頭‐上腕骨後面
停止:肘頭
支配神経:橈骨神経
作用:肘関節の伸展
※長頭は肩甲骨の関節下結節から起こり、小円筋と大円筋の間を通って腋窩隙を内側と外側に分ける。
※内側頭と外側頭は上腕骨の後面から並んで起こり、支配神経である橈骨神経は両頭の間を斜めに通って分ける。

肘筋
起始:外側上顆(上腕骨)
停止:尺骨上部後面
支配神経:橈骨神経
作用:肘関節の伸展
※上腕三頭筋の一部が分離してできたものだといわれる。





2013年3月6日水曜日

上肢帯の筋(Muscles of pectoral girdle)



※上肢帯の骨(鎖骨、肩甲骨)から起こって上腕骨につく。
※支配神経はいずれも腕神経叢から分岐




棘上筋
起始:棘上窩(肩甲骨)
停止:大結節(上腕骨)
支配神経:肩甲上神経
作用:肩関節の外転
※棘上筋腱は肩関節包に癒合して関節を補強する。
※肩峰の直下を通る棘上筋腱の摩擦を軽減するため、棘上筋腱と肩峰の間には肩峰下包、三角筋との間には三角筋下包という大きな滑液包がある。一般にこれら2つは連続する滑液包である。
※棘上筋の腱や滑液包には、加齢とともに変性が起こり、石灰化や断裂などが生ずることもある。肩関節の外転によって肩に疼痛が生ずる(五十肩)

棘下筋
起始:棘下窩
停止:大結節
支配神経:肩甲上神経
作用:肩関節の外旋

小円筋
起始:肩甲骨外側縁
停止:大結節
支配神経:腋窩神経
作用:肩関節の外旋

三角筋
起始:肩甲骨の肩峰・肩甲棘・鎖骨の外側1/3
停止:三角筋粗面
支配神経:腋窩神経
作用:肩関節の外転(側方挙上)、屈曲(前方挙上)、伸展(後方挙上)
※肩から上腕上部にかけての肩の丸みをつくる筋。
※筋線維の方向によって前・中・後の3部に分けられる。前部は鎖骨から、中部は肩峰付近から、後部は肩甲棘から起こる。
※三角筋だけでは上腕を水平位よりも高く挙上することはできない。僧帽筋や前鋸筋などが肩甲骨を回転させ、肩甲骨の関節窩を上に向ける必要がある。
※三角筋中間部の線維は上腕骨の長軸方向と平行であり、腕が体幹に沿って下垂した状態で作用させても、単に上腕を垂直に引き上げるだけで直ちに外転できない。外転を始動させるには棘上筋の収縮が必要である。

肩甲下筋
起始:肩甲下窩
停止:小結節
支配神経:肩甲下神経
作用:肩関節の内旋

大円筋
起始:肩甲骨下角
停止:小結節稜
支配神経:肩甲下神経
作用:肩関節の内旋・内転
※大円筋と小円筋の間には隙間があり、腋窩の後壁に開くので腋窩隙といわれる。上腕三頭筋長頭によって内側・外側腋窩隙に2分される。特に外側腋窩隙には腋窩神経が通り抜けて小円筋と三角筋を支配する。

※肩甲下筋・棘上筋・棘下筋・小円筋の4筋は、各腱が肩関節包の前後および上部に直接癒合して、関節を補強する回旋筋腱板ローテータ・カフ)を構成する。